τὸ Μίττου Γραμματείδιον

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現代標準バート語入門① 動詞変化ことはじめ

この記事は 筆兵無傾 Advent Calendar 2022 - Adventar 第9日目の記事として書かれました。

ご挨拶

近年は、日本でも現代標準バート語を学習する方が増えています。その学習動機は様々なようですが、みなさん動詞変化に慣れるのに苦労していらっしゃいます。確かに、現代標準バート語の動詞変化は複雑なように見えますが、語形についても意味についても基本となるルールは非常に少なく簡単です。今回はそのルールについて解説しています。

変化形の一覧

バート語の動詞には、①動詞としての変化形②名詞など別の品詞になる変化形が存在します。更に細分化すると、以下の変化形を挙げることができます(例に挙げた動詞は規則動詞の bhátúḷ「話す」です):

  • ①動詞としての変化形
    • 終止詞
      • (能動)終止詞:bhátadhí, bhátamú, bhátaze, bhátabhá, bhátaká
      • 受動終止詞:bhátaḷo, bhátaní, bhátasá, bhátaṣí, bhátaho
      • 丁寧終止詞:bhátaḷadhí, bhátaḷamú, bhátacai, bhátaká
    • 過去分詞
      • (能動)過去分詞:bhátadína, bhátamúná, bhátazená, bhátabáta, bhátakátá
      • 受動過去分詞:bhátaḷoná, bhátaníná, bhátasátá, bhátaṣíná, bhátahoná
      • 丁寧過去分詞:bhátaḷadhína, bhátaḷamúná, bhátacainá, bhátakátá
    • 未来分詞
      • (能動)未来分詞:bhátadíha, bhátamúhá, bhátazebá, bhátabáṣlo, bhátakáṣlo
      • 受動未来分詞:bhátaníhá, bhátasáṣlo, bhátahobá
      • 丁寧未来分詞:bhátaḷadhíha, bhátaḷamúha, bhátacaihá, bhátakáṣlo
    • 命令形:bhát
  • ②名詞など別の品詞になる変化形
    • 名詞化する変化形
      • 不定
        • (能動)不定詞=辞書形:bhátúḷ
        • 受動不定詞:bhátáḷ
      • 名詞化(※この動詞については用例無し):bhátaz, bhátú, bhátaḍíṣ, bhátaḍí, bhátakáta, bhátabát
      • 副詞化:bhátama, bhátaghi, bhátáká

動詞変化の気持ちを理解するためであろうと簡単なバート語を読むためであろうと、この変化形のうち赤色の部分をきっちりマスターすれば八割がたの仕事が終わったと言ってよいでしょう。次の節「動詞の変化形」では規則動詞の辞書形(不定詞)から命令形・終止詞・過去分詞・未来分詞の語形を作る方法を、その次の「終止詞・過去分詞・未来分詞の使い方」では、皆さんが混乱しがちな終止詞・過去分詞・未来分詞の使い方を解説します。

動詞の変化形

バート語の語幹には第I幹~第VI幹までの6つの語幹が存在します。語幹とは動詞の変化形をつくるための基本となるデータで、規則動詞についてはほとんど辞書形と同じ形ですが、別のパターンの動詞(j短動詞、lor語幹、迷惑幹……)ではもう少し話は複雑です。それぞれの語幹はおおよそ次の変化形をします:

  • 第I幹:不定詞など
  • 第II幹:命令形
  • 第III幹:ほとんどの終止詞・分詞
  • 第IV幹:副詞化など
  • 第V幹:名詞化
  • 第VI幹:一部の終止詞・分詞

これから察せられるように、この記事の目的のためには第I幹~第III幹までを考えればよいです。さらにうれしいことに、規則動詞では第I幹と第II幹は同じ形になります。

語幹のつくり方

語幹は辞書形から作ることができます。作り方は、規則動詞の第I幹~第III幹については次のようになります:

  • 第I幹=第II幹:辞書形から末尾の úḷ を取り除いた形
  • 第III幹:第I幹の形から次のようにつくることができます
    • 第I幹が母音で終わるとき:第III幹=第I幹
    • 第I幹が子音で終わるとき:第III幹=第I幹の末尾に a をつけた形

例えば、規則動詞 záúḷ, bhátúḷ では、それぞれ第I幹=第II幹は zá, bhát と、第III幹は zá, bháta となります。

変化形のつくり方

語幹ができればあとは活用語尾をつけるだけで変化形がつくれます:

  • 第I幹を使うもの
    • 不定詞:第I幹に語尾 -úḷ をつけます。*1
      例)záúḷ の不定詞は zá-úḷ、bhátúḷ の不定詞は bhát-úḷ
  • 第II幹を使うもの
    • 命令形:第II幹そのものです。但し、第II幹に含まれる母音が語幹末のもの唯一つである場合は語尾 -zem をつけます。
      例)záúḷ の命令形は zá-zem、bhátúḷ の命令形は bhát
  • 第III幹を使うもの
    • 終止詞・過去分詞・未来分詞:第III幹に以下の語尾をつけます。*2

    • záúḷ の場合は下のように、

    • bhátúḷ の場合は下のようになります。

これで動詞の変化形をつくれるようになりましたね。「ちょっと待ってくれ、一人称や二人称ならともかく、いきなり『指示・固有』と言われてもどういうものかさっぱりわからないぞ。そもそも、不定詞や命令形はなんとなく使い方も想像つくが、終止詞・過去分詞・未来分詞はどうやって使うんだ?」と思われた方もあるかもしれません。ではそれについて次の節で見ていきましょう。

終止詞・過去分詞・未来分詞の使い方

終止詞・過去分詞・未来分詞によって区別される最大の違いは、注目している時点(以下「基準点」)と現在との関係です。具体的には、終止詞は「基準点が現在にあること」、過去分詞は「基準点が過去にあること」、未来分詞は「基準点が未来にあること」を表します。基準点の違いが文の意味のどのように関わるのかが、終止詞・過去分詞・未来分詞の使い方のポイントです。

動詞の分類

基準点と文の意味の関係は、動詞によって大きく3パターンに分けられます。これを、動詞の分類と捉えたのが、動作動詞・瞬間動詞・状態動詞の3つです。これらは、おおよそ次のように区別されます:

  • 動作動詞:「動作が未完了である状態から完了した状態へと基準点の時点で推移しつつある」様を表す動詞
    例)cákíkúḷ「~から来る」ṣonáronáúḷ「~を不思議に思う」zeúḷ「~を回す」horúḷ「~を書きとめる」
  • 瞬間動詞:「動作が未完了である状態から完了した状態へと基準点の瞬間に一瞬で変化した」様を表す動詞
    例)bhomúḷ「~を取る」dhozocúḷ「驚く」kádúḷ「光る」
  • 状態動詞:「基準点の時点で状態の変化が完了しており、ある状態にある」様を表す動詞
    例)bhárúḷ「風が吹いている」ṣíkahúḷ「座っている」kádúḷ「光っている」

上の kádúḷ もそうであるように、1つの動詞が意味によって複数の分類をもつこともあります。状態動詞の説明がわかりにくいので補足すると、例えば「光っている」という状態が「光る」という動作が完了したことによって生み出されているように、「基準点のときにある状態にある」という主張は「そのような状態に変化するという出来事が基準点よりも前のどこかで起きている」という主張と同じことだという話です。

hem と -bhápúḷ

さて、基準点と動作・状態の変化の起こった時間を比べる方法は、終止詞・過去分詞・未来分詞の使い分けだけではありません。hem と -bhápúḷ というものもあります。

前者の hem は文末の過去分詞・未来分詞の後につき、基準点を「動作・状態の変化の起こった時間」ではなく「動作・状態の変化の完了する時間」に移す機能があります。

後者の -bhápúḷ は第III幹について規則動詞をつくる接辞で、もとの動詞よりも少し未来側に基準点を移す機能があります。

バート語の時制

以上の知識をもとにバート語の時制を理解すると、以下のようになります:

  • 動作動詞・終止詞
    • 文末に置いて現在形の文をつくる
      例)kodhel nudhoramú.「君はこれを遊ぶ=君はこれを遊ぶという動作を現在しつつあるところだ」
  • 動作動詞・過去分詞
    • 文末に置いて過去形の文をつくる
      例)kodhel nudhoramúná.「君はこれを遊んだ=君はこれを遊ぶという動作を過去にしていた」
    • hem とともに文末に置いて過去完了の文をつくる
      例)kodhel nudhoramúná hem.「君はこれを遊び終わった=君はこれを遊ぶという動作を過去のある時点で済ませていた」
    • -bhápúḷ とともに文末に置いて大過去の文をつくる
      例)kodhel nudhorabhápamúná.「君はこれを遊んだことがあった=君はこれを遊ぶという動作をして、それより未来の位置にその過去の時点でいた」
    • -bhápúḷ, hem とともに文末に置いて大過去完了の文をつくる
      例)kodhel nudhorabhápamúná hem.「君はこれを遊び終えたことがあった=君はこれを遊ぶという動作を済ませて、それより未来の位置にその過去の時点でいた」
  •   動作動詞・未来分詞
    • 文末に置いて未来形の文をつくる
      例)kodhel nudhoramúhá.「君はこれを遊ぶだろう=君はこれを遊ぶという動作を未来にするだろう」
    • hem とともに文末に置いて未来完了の文をつくる
      例)kodhel nudhoramúhá hem.「君はこれを遊び終わるだろう=君はこれを遊ぶという動作を未来のある時点で済ませているだろう」
    • -bhápúḷ とともに文末に置いて前未来の文をつくる
      例)kodhel nudhorabhápamúhá.「君はこれを遊んだことがあるだろう=君はこれを遊ぶという動作をして、それより未来の位置にその未来の時点でいるだろう」
    • -bhápúḷ, hem とともに文末に置いて前未来完了の文をつくる
      例)kodhel nudhorabhápamúhá hem.「君はこれを遊び終えたことがあるだろう=君はこれを遊ぶという動作を済ませて、それより未来の位置にその未来の時点でいるだろう」
  • 瞬間動詞・終止詞
    • 文末に置いて丁度ある瞬間にある動作が行われること(現在形)を表す(稀)
      例)ṣíkahaze.「丁度この瞬間彼女が座った=彼女は座るという一瞬の動作が現在に起こっている」
  • 瞬間動詞・過去分詞
    • hem とともに文末に置いて過去形の文をつくる
      例)ṣíkahazená hem.「彼女は座った=彼女は座るという一瞬の動作が過去に済んだ」
    • -bhápúḷ(, hem) とともに文末に置いて大過去の文をつくる
      例)ṣíkahabhápazená (hem).「彼女はもう座っていた=彼女は座るという一瞬の動作をして(済ませて)、それより未来の時点に、その過去の時点でいた」
  • 瞬間動詞・未来分詞
    • 文末に置いて未来形の文をつくる
      例)ṣíkahazebá.「彼女は座るだろう=彼女は座るという一瞬の動作を未来に行うだろう」
    • -bhápúḷ(, hem) とともに文末に置いて前未来の文をつくる
      例)ṣíkahabhápazebá (hem).「彼女はそのころには既に座っているだろう=彼女は座るという一瞬の動作をして(済ませて)、それより未来の時点に、その未来の時点でいるだろう」
  • 状態動詞・過去分詞
    • 文末に置いて現在形の文をつくる
      例)ṣíkahabáta.「彼は座っている=彼は『座っている』という状態への切り替えを過去のある時点で行った」
    • hem とともに文末に置いて過去形の文をつくる
      例)ṣíkahabáta hem.「彼は座っていた=彼は『座っている』という状態への切り替えを過去のある時点で済ませていた」
    • -bhápúḷ(, hem) とともに文末に置いて大過去の文をつくる
      例)ṣíkahabhápabáta (hem).「彼はもう座っていた=彼は『座っている』という状態への切り替えをして(済ませて)、それより未来の時点に、その過去の時点でいた」
  • 状態動詞・未来分詞
    • hem とともに文末に置いて未来形の文をつくる
      例)ṣíkahabáṣlo hem.「彼は座っているだろう=彼は『座っている』という状態への切り替えを未来のある時点で済ませているだろう」
    • -bhápúḷ(, hem) とともに文末に置いて大過去の文をつくる
      例)ṣíkahabhápabáṣlo (hem).「彼はそのころには既に座っているだろう=彼は『座っている』という状態への切り替えをして(済ませて)、それより未来の時点に、その未来の時点でいるだろう」

以上です。欠けている形がなぜ存在しないかも考えてみてください。

人称の決め方

では最後に、動詞の人称を決める基準を説明します。いままで説明したような動詞を文末に置く場合では、次のようになります:

  • 一人称:話し手が含まれている集団が主語であるとき
  • 二人称:話し手が含まれず聞き手が含まれている集団が主語であるとき
  • 三人称・女性:話し手も聞き手も含まれない人・動物の集団や一人の女性が主語であるとき
  • 三人称・男性:話し手も聞き手も含まれない人・動物の男性の集団が主語であるとき
  • 指示・固有:主語が人間でも動物でもない場合が基本であるが、主語が未特定・不存在のものである場合(ásúka ám hemakátá.「人っ子一人いない」など)や主語が性別のわからない動物である場合も人称は指示・固有である。

更に、今まで触れてきませんでしたが、過去分詞や未来分詞は名詞を修飾することができます。この場合の人称も基本的には文末と変わりありませんが、修飾される名詞が分詞のひきつれる動詞句にとって三人称の主語である場合は、人称を指示・固有にすることができます。但し、動詞句の主語になりうるものの範囲が極端に狭い場合は本来の人称を使うのが普通です。例えば「マカティにいる男」は "makatiḍi hína hemakátá kí" と指示・固有で表現するのが普通ですが、「これを書いた女性」は "kodhel horazená sá" と三人称・女性で表現するのが普通です。また、この人称は動詞句の主語で決まるので、「私の見た女性」は "okákadína sá" となることに注意してください。

終わりに:これからどうするか

以上でこの記事で予定していた内容は終了しました。しかし、この内容はバート語の動詞の基礎に過ぎません。更に進んで学習したい方には、次の順番で学習することをおすすめします:

  1. 規則動詞から語幹(第I幹~第VI幹)をつくる規則:そのまで難しいわけではない規則なので一気に覚えられると思います。
  2. 規則動詞での受動・丁寧の変化を学ぶ:この記事では能動の変化しか扱いませんでしたが、実際の文には受動や丁寧の表現も登場します。これらの変化を能動の場合と比較しながら覚えていくことはバート語をする上で避けられません。
  3. 不規則動詞の語幹の形を覚える:バート語には、発音上もしくは歴史上の事情によりいくつかの不規則動詞が存在します。しかし、その数は数十パターンですので、それぞれ6つの語幹を丸暗記しても百かそこらしかありません。
  4. 実際に文を読んで覚えた変化に慣れる:ここまででバート語の動詞変化について学ぶべきことは学びましたが、実際に使ってみなければ身につかないものです。日本を代表するバート語教師である荒洲 宗保谷氏は文法の理解を非常に重視することで有名ですが、実際の彼の講義では、その大半の時間を演習に費やしています。それだけ語学において演習量は絶対的なものなのです。

これで本当にこの記事は終わりです。最後までお読みいただきありがとうございます。

*1:これは定義より明らかですね。

*2:過去分詞・未来分詞の語尾は、太字の部分を終止詞の語尾につけたと思うと覚えやすいでしょう。